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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)785号 決定 1977年3月09日

抗告人

東洋製鋼株式会社

右代表者

大山梅雄

右代理人

岡田実五郎

外二名

相手方

埼玉建興株式会社

右代表者

土井義夫

主文

一、本件抗告を却下する。

二、抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

按ずるに、本件記録に徴すれば、本件債権差押及び転付命令が当事者の審訊を経ないで前記のように発せられ、同命令が本件債務者(抗告人)に対し昭和五一年九月二二日に、本件第三債務者に対し同月二七日にそれぞれ送達されたこと、抗告人が同月二九日本件即時抗告に及んだことが明らかである。

一般に、債権転付命令が適式に発せられ、これが債務者及び第三債務者に適法に送達されたときは、民訴法六〇一条により執行債権につき弁済の効果が生じその時に該債権に対する強制執行手続は終了し、その後において右債権の差押及び転付命令に対し執行法上の不服申立をすする余地はないと解すべきである。そうでないと、執行債権者、第三債務者の地位の不安定をもたらし、執行債権者にその危険負担のもとに優先的に債権の満足を与える債権転付命令制度の本来の趣旨にそぐわない結果が生ずると思料されるからである。

尤も、債権差押、転付命令の基本となつた債務名義に基く強制執行につき、すでにその停止決定がなされているのに、執行債権者が故意又は過失により債権差押、転付命令をえたような場合には、執行債権者の地位の安定を顧慮する必要はもとよりないし、右差押、転付命令の違法は著しく、また特に執行債務者の救済をはかる必要性が大きいというべきであるから、この限りにおいて当該転付命令の送達によつては未だ該債権に対する強制執行手続は終了しないものと見做して執行債務者からの右執行に対する不服申立の途を開く等、執行債務者の救済を別異の要請、観点から考慮する余地はあろう。

しかしながら本件記録によれば、本件債務者(抗告人)が本件債権差押及び転付命令が前記のとおり送達された後、その基本となつた債務名義である仮執行宣言付判決に基づく強制執行につき、昭和五一年一〇月二七日その停止決定(東京高等裁判所昭和五一年(ウ)第八二九号)をえて、これの正本(写)を同年一一月一日当裁判所に提出したことが認められるに過ぎないのであつて、これらのことが、すでに終了した執行手続に対する執行法上の不服申立の途を本件債務者に与えうるものとは解されない。

以上の次第で、本件債権差押及び転付命令に関する本件抗告は右の点ですでに不適法として却下を免れないものである。

よつて、これを却下することにし、抗告費用の負担につき民訴法九五条、八九条に従い主文のとおり決定する。

(外山四郎 海老塚和衛 小田原満知子)

【抗告の趣旨】 原命令を取消す

との裁判を求める。

【抗告の理由】 一 横浜地方裁判所川崎支部昭和四八年(ワ)第一五七号請負工事代金請求事件について、第一審たる横浜地方裁判所川崎支部は昭和五一年九月八日判決を言渡し、同判決において、抗告人たる被告に対し、金一六六三万二五二一円、およびこれに対する昭和四七年八月一日から完済に至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じ、これに仮執行の宣言を付した。

そして、原告たる相手方は、右執行宣言に基づき、昭和五一年九月二〇日前記原命令たる債権差押及転付命令を得た。

二 しかし、抗告人は昭和五一年九月二五日右判決を不服として御庁に対して同裁判所(ネ)第二二一二号を以つて控訴手続をとつたので右判決は未だ確定せず、従つて第一審の判決した金員も未確定であり、又抗告人は、昭和五一年一〇月二七日右判決に基づく強制執行の停止決定(昭和五一年(ウ)第八二九号)をえた。

三 控訴審において、原審の判決が取消され、あるいは第一審の認容した金員を下廻る金員しか認容されない場合、抗告人は相手方より転付命令をもつて移付された債権額の全額あるいは一部を返還してもらうこととなるが、現在の相手方会社の経営状況、資産内容よりして、その返還の実行に多大の疑問がある。

四 以上により、抗告の趣旨記載の裁判を求める。

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